コラム
従業員のモチベーションを高める施策とは
近年「モチベーションマネジメント」を重視する企業が増加している。
モチベーションは、企業においては「意欲」や「やる気」という意味でも使われることが多く、「モチベーションが高い」ということは、社員が自発的に業務を改善するなど「業績を上げるために意欲的に働いている状態」のことだといえる。モチベーションマネジメントでは、従業員満足度を高める施策によって社員のモチベーションをアップさせ、さらに社員のエンゲージメントも高めて会社の業績を上げることが目的となる。
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モチベーションを高める要因とは
組織の成果を高めるためには、メンバーひとりひとりから「やる気」「意欲」を引き出すための「動機づけ要因」を知っておく必要がある。
動機付け要因とは、何らかの行動や決断をするきっかけや原動力となるもので、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」という2つの要素で成り立ち、それぞれに次のような特長がある。
1.外発的動機付け
外発的動機付けとは、人の外側からの働きかけによって意欲や行動を生じさせること。
報酬を得るために行動しているため目的が明確で行動を起こしやすいという特長がある。ただし、報酬が得られない場合はもちろんのこと、報酬を得た場合でも一度得た報酬だけでは満足できなくなり、モチベーションが長続きしにくいという傾向がある。
また、他人から認められたい、評価されたいなどのプライドに訴える報酬は、他者からの評価に左右されて自分ではコントロールできないため、ストレスを受けやすい。外発的動機付けの効果は高いが一時的であり、外側から与える動機付けのため従業員の自発性を育ちにくくするという側面もあることを押さえておきたい。
2.内発的動機付け
これに対して内発的動機付けとは、意欲を人の内側から生じさせることを指す。自分自身の感情や心理によって行動が促され、「仕事自体に魅力を感じる」ことが内的動機となり、「やりたいから、やる」という姿勢で意欲的に取り組むことにつながるのだ。
このため内発的動機付けには長期的な効果があるといわれていて、自分自身を向上させていこうとする意識も働きやすいため、エンゲージメントが高まり個人的成長にも繋がりやすいといわれている。
ただし、社員一人一人の意識を変える必要があるため、実施方法が明確でなく、すぐには効果が出にくいという側面もある。
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従業員満足度、モチベーション、エンゲージメントの関係と施策
ここで、モチベーションマネジメントの施策を考える前に、従業員の心理状態を表す従業員満足度、モチベーション、エンゲージメントの3つの概念の関係を見ておきたい。
まず、従業員満足度とは、「従業員が企業や現在の仕事、職場の人間関係にどの程度満足しているか」を示す指標であり、モチベーションアップやエンゲージメントを高めるベースとなる。例えば、職場環境や給与、福利厚生や人間関係に関する満足度がこれにあたる。
ただし、満足度の高い従業員がやる気や意欲がある、会社や組織に貢献したいと考えているとは限らない。このため、社員に対してやる気や意欲を出させ、行動意欲を引き出すモチベーションアップのための施策が重要となってくる。
従業員満足度が高く、仕事で高いモチベーションを維持できる従業員は、個人のスキルや能力の研鑽に情熱や時間を注ぐようになる。自発的に業務の改善や生産性の向上に取り組むことも期待できるだろう。
しかし、個人のモチベーションが高くても、それが必ずしも会社の業績に結びつくとは限らない。なぜなら、そのモチベーションは、会社の求めている業務ではない方向に向いてしまう可能性もあるからだ。そこで重要なのが、エンゲージメントを高める施策だ。
エンゲージメントは、企業と従業員のベクトルを合わせることであり、具体的には、従業員が企業の理念やビジョンを理解し、企業への信頼や愛着、貢献意欲を持っている状態を指す。
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モチベーションを高める施策事例
モチベーションマネジメントにおいてモチベーションを高める施策にはどのようなものがあるのか、先進的な企業の事例を動機付け要因別に見てみよう。
1.外発的動機付けを活用した例
株式会社フォルシアの「3C制度」
データベースを利用したシステム開発事業を展開する株式会社フォルシアでは、どれだけのアウトプットをしたか、だけで見られがちなエンジニアの評価制度のあり方が課題となっていた。そんな中で生まれたのが、「3C評価制度」だ。
3Cとは、「Contribution(会社への収益の貢献度)」、「Commitment(業務に対する献身度」)、そして「Consistency(会社への安定的関与)」の3つの頭文字を取ったもの。
これは「あなたに総額○○○万円のボーナスが与えられ、これを自分以外の3C対象者に分配する権限があったとしたら、それぞれにいくらずつ分配しますか」というテーマが書かれたシートに、役職員それぞれが分配額と理由を記入し、それを基にして特別賞与額を決定し対象社員に支払うというユニークなもの。
同僚への評価を金額として記入するのはなかなか勇気のいることだが、実際の数字はわかりやすくモチベーション向上に直結することから、同社でこの制度は定着し、現在も継続中だという。
2.内発的動機付けを活用した例
株式会社エーピーコミュニケーションズの『全社員でアジャイル中期経営計画策定』
本来経営陣が作るものと考えられている事業計画書に対して、従業員が当事者意識を持つことはまず、ない。しかし、システムインテグレータ事業を展開する株式会社エーピーコミュニケーションズは、2018年から全社員が「アジャイル中期経営計画」として、事業計画書作成に参画するシステムを開始した。
これは、「すばやい」「敏捷」といった意味を持つアジャイル開発の手法を取り入れ、あえて未完成の事業計画書を公開し、従業員からのフィードバックを募りながら完成させていく、という取り組み。
こうすることで多くの社員がもっと中期経営計画に興味を持つようになり、当事者意識が生まれることで、計画を実行するためのモチベーションが高まるのではないかと考えての施策だ。
結果として策定後の社員アンケートでは、回答者の90.8%がこの策定方法を「良いやり方だった」と評価するなど、社員の納得度の高い計画を策定することができたという。
3.外発的動機付けと内発的動機付けを組み合わせて活用した例
リクルートホールディングスの『新規事業提案制度』
人材派遣大手のリクルートホールディングスでは、「New Ring Recruit Ventures」という制度を導入している。これは、部署を問わず自由に編成された社員メンバーからの新規事業提案を受け付けるというもので、1983年に「Ring」制度としてスタートし、2014年4月から名称を新しくして現在も継続している。
企画書の提出には、1グループ毎に5万円の活動費が支給され、また3名以上であれば社外メンバーの参画も可能。事業案は、書類審査・面接・1次審査を経て、可能性が見込まれれば年間500万円の予算がつく。さらに、提案が受け入れられたメンバーは、実際に新規事業開発部署へ異動・出向し事業化に取り組むことができる。
自分のアイディアが認められるチャンスが誰にでもあり、しかも一回だけの表彰ではなく、事業として継続することができるというこの制度は、外発的動機付けと内発的動機付を上手に組み合わせた、見事な事例といえよう。
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まとめ
- モチベーションマネジメントとは、社員が高いモチベーションを維持しながら仕事に邁進できる人事・労務制度や職場環境を整備し、それを改善しながら運用すること。
- モチベーションマネジメントの目的は、従業員満足度を高める施策によって社員のモチベーションをアップさせ、さらに社員のエンゲージメントも高めて会社の業績を上げること。
- モチベーションには「やる気」「意欲」を引き出すための「動機づけ要因」がある。
動機付け要因とは、何らかの行動や決断をするきっかけや原動力となるもので、「外発的動機付け」と「内発的動機付け」という2つの要素で成り立っている。 - 従業員満足度とは、「従業員が企業や現在の仕事、職場の人間関係にどの程度満足しているか」を示す指標であり、モチベーションアップやエンゲージメントを高めるベースである。
- エンゲージメントは、企業と従業員のベクトルを合わせることであり、従業員と企業が同じ未来に向けて歩んでいるかを示す指標。具体的には、従業員が企業の理念やビジョンを理解し、企業への信頼や愛着、貢献意欲を持っている状態を指す。