コラム

2020.08.06
人事コンサル 人事トレンド 働き方
更新日:2020.08.06
著者:H.C.
人事コンサル 人事トレンド 働き方
離職防止・定着率向上の施策トレンド・事例
Business strategy concept of Attract, Convert, Retain


離職防止・定着率向上の施策トレンド・事例

厚生労働省が発表している新規大卒就職者の事業所規模別離職状況によると、平成30年3月卒の新卒社員のうち、1年目で離職した社員は全体の11.6%にものぼる。こうした背景から、従業員の離職防止、定着率の向上について多くの企業が力を入れ始めている。これに伴い、採用・教育コストの削減といったメリットだけでなく、採用活動においても企業イメージを向上させることができ、より大きな母集団形成や内定辞退防止にも有効となる。

本コラムでは、従業員の離職防止、定着率の向上の観点での施策トレンド・事例についてみてみたい。


01
離職理由の分析とエンゲージメントの重要性

離職防止策を検討するにあたり、離職率だけでなく離職の理由・原因を分析することが重要となってくる。また、離職理由の分析とあわせて押さえておきたいのが、従業員の「エンゲージメント」という視点だ。エンゲージメントとは、従業員の会社に対する愛着心や思い入れといった意味であり、近年急速に注目が高まっている。

実際に、エンゲージメントを高めることで、離職防止だけでなく、生産性の向上や、品質上の欠陥の減少などパフォーマンスの違いが出てくることが明らかになっているため、さまざまな企業がエンゲージメントを高めるための施策を推進している。

例えば、「オン・ボーディング」により、従来、一括採用した新卒社員に対して、入社後集中的に研修を行う受け入れプロセスを見直し、継続的なサポートプログラムを実施することで、早期戦力化を図り、帰属意識を高める施策が注目されている。プログラムは各企業がさまざまに工夫しているが、共通の特徴として、対象を新卒人材に限らず、キャリア採用人材までを含むことや、新規採用者だけでなく、そこに関わる上司や同僚も対象として、職場全体で受け入れるという継続したアプローチであることなどがあげられる。


02
従業員の離職防止、定着率向上の施策

では、離職防止、定着率向上の施策としてどのようなものがあるのか、以下に具体的に紹介する。



1.ワークライフバランスの推進・労働環境の改善

ワークライフバランスとは、「仕事と生活の調和」であり、仕事も生活も多様な生き方を選択できる環境を指す。企業から見れば、社員の生活を犠牲にすることなく、ライフステージに応じて働きやすい仕事環境を整えて行こう、という考え方だ。
ワークライフバランスの推進例としては以下のようなものがある。

ワークライフバランスの推進例
  • 長時間労働の是正、有給休暇の消化促進、育児休暇制度の利用促進
  • テレワーク・リモートワークの導入
  • フレックスタイム制度、時差出勤、副業許可 など
2.人事制度の見直し・改定

評価基準の明確化と、働きに見合った報酬を提示できる人事評価制度の整備は離職防止の大きな対策となる。各人の業績に応じたインセンティブでメリハリをつけたり、同業種・業界内での自社のポジショニングを精査し、それに応じて給与水準を見直すなど、過去にとらわれず柔軟に人事評価、報酬制度を改定することで離職率を低下させることは可能である。
人事制度の見直し・改定策としては以下のようなものがある。

人事制度の見直し・改定策
  • 自己申告制度・社内公募制度、ノーレイティング
  • 相対評価・評価分布の見直し、表彰制度・ピアボーナス など
3.社内コミュニケーションの活発化

社員とのコミュニケーションが取れておらず、本人が離職を考えたときに相談できるような関係性ができていないことは離職率の悪化につながる。
これはリアルな対面空間である職場だけの話ではない。コロナ禍に起因する「新しい生活様式」の中でリモートワーク化が進んでいく中、いつでも仲間との雑談や相談等が可能となる環境を構築することが求められている。
社内コミュニケーションの活発化推進策としては以下のようなものがある。

社内コミュニケーションの活発化推進策
  • 経営者からの情報発信、社内報・社内SNS
  • 1on1ミーティング、メンター制度
  • 社内ランチ会・社内サークルの補助 など
4.採用戦略・施策の見直し

ここまで入社後の定着率向上策を見てきたが、それ以前の段階である、採用までのプロセスを見直し、採用戦略を立て直すことも重要だ。採用時にミスマッチをできるだけ回避しておけば入社後の定着率は自ずと向上するからだ。

まず、求めるターゲット像を選定するには、その前提として自社の強みや特徴を正確に捉えておく必要がある。その上で自社に必要なターゲット像を作り上げていく。

次に採用基準を明確化し、求人票を見直すことは採用戦略の根幹をなす大切なステップだ。従来、採用要件は「スキル」「経験」「人柄」などに分類され、具体的には「TOEIC何点以上」「実務経験何年以上」「積極的で意欲がある」などといった採用基準を設定することが多かったが、近年ではこれに加え、「自社が重要にしている価値観」を明文化することで、エンゲージメントの高さを基準に加えることも多い。


03
事例紹介

ここまで、離職防止、定着率向上の施策トレンドについて見てきたが、最後に先進的な企業事例を2社ほどご紹介したい。



1.サイボウズ株式会社

テレワークなど多様な働き方を推進し、離職率の削減に成功

いまでは働きがいのある会社として定評のあるサイボウズ社も、2005年当時は、過酷な労働環境によって離職率が28%と高かった。社員の4人に1人が辞めていくという事態に危機感を覚え、働き方改革に取り組み始める。

社員を定着させていくためにどうしたらいいのか、議論を重ね行き着いたのが、「100人いれば100通りの働き方があってよい」という人事方針だった。制度に社員をあてはめるのではなく、社員一人ひとりの個性が違うことを前提に、それぞれが望む働き方や報酬制度が実現されればいい、という考え方だ。

そして働き方の変革を実現するために、「制度」に加え、場所や時間にとらわれずに働くことができる「ツール」、企業の価値観としての「風土」の3つをセットで整備することに注力した。残業禁止や時短勤務などといった「制度」自体は作れても、それを受け入れる環境がなければ活用することができないと気づいたからだ。

制度があっても「申請できる雰囲気ではない」という企業の「風土」では、せっかくの制度も活用されない。
同様に重要だったのは「ツール」だ。例えば在宅勤務を制度化しても、オフィスから離れて仕事をすることでストレスや疎外感を感じてしまっては定着しない。テレワークシステムやチャットなど意思疎通のための機能が備わっている、出社したときには快適に過ごせるオフィスがある、など、制度と同時に「ツール」を整えていった。

こうして3要件をセットで整備することによって、働き方の多様化を実現するための制度を確立し、最大28%だった離職率を4%にまで押し下げることに成功した。

https://www.dodadsj.com/content/180222_cybozu/

https://telework.cybozu.co.jp/

2.リクルートホールディングス株式会社

高度専門人材の確保、定着に向けたエンゲージメント強化

株式会社リクルートホールディングスでは、急速なデジタル化とグローバル化へ対応するため、高度なスキルを保有するITエンジニアなどの高度専門人材の獲得・定着が急務となっていた。
そこで、対象に応じて多様な手法を活用した採用戦略、定着率向上のために高度専門人材を意識した環境整備やバリュー浸透によるエンゲージメント強化を実施した。

具体的には、グループ会社の一部では優秀層の定着に向け、ハード・ソフト両面で施策を行った。ハード面では社員にとって魅力的なオフィス立地や快適なオフィス設計の検討、福利厚生の提供、ITシステムの活用などを推進する。ソフト面ではバリュー浸透に向けて、エンゲージメントサーベイを通した現状把握、職場単位のディスカッションを実施することで社員が自律的に職場環境を変えていけるような場を提供してきた。さらには報酬水準も含めた要素を強化するなど職場環境の整備と採用活動の強化により、30か国を超える多様な出自の高度専門人材を採用することができた。

高度専門人材の離職率は低い水準を保ち、効果的なリテンションに成功。結果として、グループ内のIT先進企業においては、日本に比べ転職率が高い海外出身の社員が多くを占めているにもかかわらず、離職率が低い水準を保っている。

https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/jinzai_management/pdf/20190329_01.pdf


04
まとめ

この記事のおさらい
  • 従業員の離職防止、定着率の向上を目指すには、離職の理由・原因を分析することに加え、新規採用人材の受け入れプロセスを「オン・ボーディング」にシフトするなど、エンゲージメント向上への施策も重要となる。
  • 具体的な従業員の離職防止、定着率向上のための施策としては、
    1.ワークライフバランスの推進・労働環境の改善
    2.人事制度の見直し・改定
    3.社内コミュニケーションの活発化
    4.採用戦略・施策の見直し
    などがある。