コラム
- 新型コロナウイルス禍のなか、注目されているテレワークの形態と適した職種
- 企業、従業員の両側面からみたテレワークのメリット・デメリット
- テレワークを推進するために求められる制度・ツールの整備
テレワークの実態と導入における留意点
新型コロナウィルスの影響により、政府からも外出自粛要請が企業向けにも出されている中、注目を集めているテレワーク。本コラムでは、テレワークの実態や、企業・従業員双方にとってのメリット・デメリットを紹介し、デメリットを踏まえたテレマーク導入に際しての留意事項について、先進企業の取組事例の紹介も交えて考察したい。
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テレワークが注目を集める背景
「テレワーク」は、「tele(離れて)」と「work(働く)」をつなぎ合わせた造語で、情報通信技術=ICT(Information and Communication Technology)を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をすることを指す。
働き方改革への取り組みが活発化するなか、「労働力の確保」「生産性の向上」といった経営課題の解決を目的として、テレワーク導入企業が近年増加している。また、東京オリンピック開催期間の交通機関の混乱を避けるためにテレワーク導入に向けた環境整備を進めていた企業も多い。
テレワーク導入は企業、労働者双方に「ワークライフバランスの実現」「オフィスコストの削減」「環境負荷の軽減」「事業継続性の確保」等、様々な効果がある。特に、新型コロナウイルスによる地球規模のパンデミックへの対応で、外出自粛要請が出されているなか、企業は事業継続、ウイルス感染の拡大防止といった社会的責任を果たすべくテレワークを導入し、社会生活の維持に貢献している。
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テレワークの形態
テレワークの形態は主に以下の3つがある。
1.在宅勤務型
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自宅を就業場所とする形態。育児、介護、傷病治療、身体障碍といった状態にあり、恒常的または一時的に在宅中心の生活を必要とするか通勤が困難な人に適する。
2.モバイル勤務型
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場所に依存せず、取引先のオフィスや移動中の車内などで仕事をする形態。モバイル端末を利用して社外で書類作成やメール対応などを行うことが可能な営業職、SE、サポートサービスなど顧客対応業務の人に適する。
3.施設利用型
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サテライトオフィス、コワーキングスペース、カフェなどを就業場所とする形態。内勤業務を主体とし、出社しないワークスタイルが可能な企画、管理部門の人に適する。
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テレワークのメリット、デメリット
テレワークには、企業、従業員ともに多くのメリットがある反面、運用にあたって障壁となるデメリットも存在することを理解しておきたい。
1.企業視点
- 離職防止と人材確保
育児・介護・病気療養などで出社が困難になった従業員が、在宅での仕事継続が可能となり、それを理由とした離職を防止できる。また、通勤が困難な遠隔地に暮らす優秀な人材の採用ができる。 - オフィスコストの削減
オフィススペースにかかる賃料、オフィスペーパー、通勤・営業交通費などオフィスコストの削減が可能。 - 非常時の事業継続性の確保
自然災害、テロ、ウイルスによるパンデミックなどの非常時に、テレワークによる事業継続ができ、事業利益の損失を抑えることが可能。また、社会機能の維持にも貢献する。 - 生産性の向上
顧客対応職の顧客訪問回数や滞在時間の増加につながり、迅速な顧客対応が実現できる。
- 各種制度の再整備が必要
テレワーカーの勤怠管理、業務の評価制度などをテレワーク仕様に見直す必要がある。 - テレワーク環境の整備および情報漏洩リスク管理
モバイル端末などのICTツール付与、情報セキュリティシステムの強化などテレワーク環境整備にコスト増が見込まれる。 - 帰属意識低下による離職率増加
自社勤務が減り同僚・上司との顔合わせが減る事で、孤独感が高まり、帰属意識が低下し、離職率が増加するマイナスの懸念もある。
2.従業員視点
- ワークライフバランスの実現
テレワークにより家族と過ごす時間、趣味や自己啓発に充てる時間が増える。また、育児、介護などと仕事との両立が叶い、仕事と生活の調和を実現できる。 - ストレスの軽減
通勤の満員電車や交通渋滞から解放され、ストレスの軽減になる。
- 従業員間のコミュニケーション機会減少
従業員同士がオフィスで顔を合わせて話をしたり、直接仕事の相談・情報交換をするFace to Faceの機会が減少する。 - 労働時間管理のルーズ化
テレワーク仕様の勤怠管理を制度化、システム化しないと自己管理だけでは勤怠時間管理がルーズになりがち。
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テレワーク導入に必要な環境整備
前述した、テレワーク導入によるデメリットを解消するため、企業は新制度やツールの整備の対応に迫られておりどのような事項に留意すべきかを以下に挙げる。
1.各種制度・システムの整備
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テレワークの労務管理には、勤怠の把握、業務の評価にこれまで適用してきた社内規定や制度と不整合が生じるといった課題がある。
勤怠の把握には、みなし労働時間制、裁量労働制などの採用も含めて、管理方法の制度化と勤怠管理システム導入を検討したい。
業務の評価では、テレワークによる業務プロセスと成果の評価基準を新たにつくり制度化するなど、労使間でコンセンサスを得ておく必要がある。 2.ICTツールの提供
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モバイルデバイス、Wi-Fiルーターなどを支給し、全費用を企業が負担するのか、テレワーカーの私有デバイスを使用して、料金を公私に分けて負担しあうのかなど、最適な方法を検討しなければならない。
3.情報セキュリティ対策
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テレワーク推進により、これまでオフィス内だけで管理されてきた機密情報が社外漏洩するリスクがあり、セキュリティ対策は不可欠である。保護すべき情報資産を洗い出し、リスク・重要度に応じた対策を実施することが重要だ。また、IT面の対応だけでなく、情報保護ポリシーや社内ルールの策定も必要であり、それに基づいたテレワーカーへの教育・技術指導も並行して行いたい。
総務省による「テレワークセキュリティガイドライン」を、必ず確認しておきたい。「テレワークセキュリティガイドライン」:総務省
https://www.soumu.go.jp/main_content/000545372.pdf 4.コミュニケーションツールの導入
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テレワーカーとのスムーズな情報共有やコミュニケーションは、帰属意識を持たせ、生産性を高めるためにも必須条件である。Web会議等の遠隔会議システムの導入を検討したい。また、テレワーカーとの報連相の徹底には、企業内SNS(チャット)などのツール活用を併せて検討したい。
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テレワーク導入企業の取り組み事例
総務省が毎年発表している「テレワーク先駆者百選」。その総務大臣賞を令和元年度に受賞した企業のなかから、2つの取り組み事例を紹介する。
事例1【地方在住勤務】
シックス・アパート株式会社:ソフトウェア開発業(従業員数30人)
同社ではQOLの向上を目的として、テレワーク中心の働き方である「SAWS(Six Apart Working Style)」と名付けた取り組みを進めている。その働き方が目指すものは、「働くこと」と「時間/場所」の分離である。地方在住のエンジニアの正社員採用や、既存従業員の帰省先での就労など、東京都以外でのテレワークを積極的に推進し、その結果、従業員30人中16人が、在住する東京都外および地方で仕事し、月に1~2回程度出社する働き方となっている。
同社はテレワークの推進にあたり、全従業員に一律でテレワーク手当(1.5万円/月)を支給し、業務環境整備に必要なコストを補助している。さらに地方自治体と連携して、セミナーを開催するなどテレワーク普及に取り組んでいる。
事例2【短時間勤務社員のフルタイム化】
アフラック生命株式会社:金融(保険)業(従業員数5,287人)
同社は「アフラックWork SMART」というスローガンを掲げ、経営層を巻き込んで働き方改革の実現に取り組んでいる。その一環として2017年から本格化したテレワークは、「在宅勤務を社員各自が年に1度は経験する」といった目標とルールを定め、経営層から実行した。そして徐々にその頻度と対象を拡大し、多くの社員が実施にいたっている。
地方勤務社員は、整備されたTV会議システムや在宅勤務用のICT環境の下、本社の業務や研修にテレワークを活用して参加している。その結果、1人あたりの時間外労働時間マイナス2.9時間(2017→2018年の推移)、短時間勤務社員比率が53.4%(2015年度)から38.4%(2018年度)となった。テレワーク導入は、短時間勤務社員のフルタイム化など働き方改革の実践に効果をあげている。
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まとめ
- 働き方改革への取り組みが活発化するなかで、「労働力の確保」「生産性の向上」といった経営課題の解決を目的として、テレワークを導入する企業が近年増加している。
- テレワークには、在宅勤務型、モバイル勤務型、施設利用型の3形態があり、従業員の職種や状況によって適した形態を選択。
- テレワークには、企業、従業員ともに多くのメリットがある反面、運用にあたって障壁となるデメリットも存在する。そのデメリットを解消するため、新たな制度づくりも求められる。