コラム
- 人事施策・制度とは企業戦略を遂行するための施策で「等級制度」「評価制度」「報酬制度」が中核となる。
- それは時代背景や社会、経済環境によって変化し「日本型経営システム」をベースに進化してきた。
- 少子高齢化、ライフスタイルの多様化に伴い、実情に即した各種制度の整備が必要となっている。
- いまトレンドの制度のキーワードは「短期化」「多様性」「透明性」。
- 「コンピテンシー評価」「MBO」「360度評価」などで多角的な制度導入が重要。
人事施策・制度面での最新トレンド・動向
時代背景や社会、経済環境によって変化し「日本型経営システム」をベースに進化してきた人事施策・人事制度は、少子高齢化・ライフスタイルの多様性といった状況を踏まえて、実情に即した各種制度の整備が求められています。本コラムでは、人事制度の変遷を簡単に振り返ったうえで、評価制度を中心に最新の人事制度のトレンド・動向をご紹介します。
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人事施策、人事制度とは
人事施策、人事制度とは、広義には「社員の採用から管理、育成など人事に関する施策全般」を指し、狭義には「等級・評価・報酬などの各種制度」のことをいう。
これらは、事業の目的を果たすにあたり、会社価値を高める経営戦略の一環として、人事部門が担うものである。
その中でも、具体的な施策であり中核をなすものが「等級制度」「評価制度」「報酬制度」であり、従業員の能力や実績を正当に評価し、適切に処遇するための基準を明確にすることで、給与や昇格、昇進に反映させる。
また、単なる規則やルールにとどまらず、制度によって個々の生産性やモチベーションを上げることで、人材と組織双方の向上を目指す。
時代背景や社会情勢によって求められるものは異なり、近年では、労働者を一律に管理するようなトップダウンの施策から、個人の多様性に応じ、個々の能力を活かすものへと変化してきている。
02
日本における人事制度の主な変遷
人事制度は社会情勢とともに変遷してきた。
その時代における世相を反映しているといえよう。
2-1.安定した雇用が求められた高度経済成長期(1950~60年代)
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高度経済成長期においては慢性的な人材不足を背景に、安定的な人材確保を図るべく「終身雇用」「年功序列制」「企業内組合」の「三種の神器」を擁した、安心して働くことができる「日本型経営システム」が定着した。
勤続年数によって賃金も上昇し、労働者の権利が保障されるこのシステムは、長く日本の人事制度の骨格を形づくっていた。
2-2.労働力から個々の能力評価へと変化したバブル時代(1970~80年代)
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勤続年数によって一律に評価される「年功序列制」は、画一な労働力が求められた高度経済成長期には機能したものの、安定成長期に入ってくると公平な評価がなされないという課題が上がってきた。
そこで、賃金体系は年功序列を基本にしつつも、個々の能力を等級に分け、昇格、昇給、給与に反映させる「職能資格制度」という日本特有の等級制度が導入された。
2-3.アメリカ型成果主義が導入されたバブル崩壊後(1990年代)
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バブル崩壊を背景に経営の効率化が求められ、成果に対しその対価が支払われるアメリカ型の成果主義が注目された。同時にリストラや余剰人員削減が行われ、即戦力確保のための中途採用が一般化し、成果を上げる人材の行動や特性を分析・育成しようとする「コンピテンシー」の考え方が浸透し始めた。
一方で、日本的チームワークを重視する企業にはなじまないことや、長期的に人材を育成する視点が疎かになるという弊害から多くの企業には定着せず、日本型の成果主義が模索されることになった。
2-4.成長を促す「新成果主義」へと移行する長期化デフレ期(2000年代)
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デフレが長期化し、国際競争力が求められるようになった2000年代には、少子化による労働力の減少、個人の価値観の多様化といった新たな課題も浮上し、画一的な価値観によって「管理」する制度から、自ら課題を設定・解決し成長していく「経営視点」「現場課題解決」「人材開発・組織開発」といった制度へと変化してきた。
成果のみを追求するアメリカ型成果主義から、能力やプロセスなど多角的な評価を取り入れた日本型の「新成果主義」へと移行する企業が増えている。
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人事施策に関連する近年の法令と主な対応
法令によって人事施策上の課題解決を促進される場合もあり、人事にはその対応が求められる。
近年の法令と主な対応についてまとめてみる。
3-1.マイナンバー制度
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※2013年に成立したマイナンバー法を根拠とする制度で、2015年9月に改正
行政業務の効率化を目指し導入されたマイナンバー制度。住民票を有する全員に対し12桁の個人番号(マイナンバー)を付与することで個人情報を管理するもの。
企業では税務上の手続き、健康保険組合手続きが管理しやすくなる一方で、人事給与システムの改修が必要となり各企業はその対応に追われた。
また、情報保護のための安全管理措置、社員の情報保護に対する認識を高めるための教育への取り組みなどが求められている。
3-2.ストレスチェック
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※労働安全衛生法第66条の10に基づき、2015年12月から50人以上の労働者を抱える事業場で実施を義務付けられているストレスに関する検査
職場環境の向上、健康的な就労のために定められた。厚生労働省の資料にある「ストレスチェック制度導入マニュアル」から、国が推奨する57項目の質問票を参考にチェックシートを作成し、本人が記入し医師などが評価を行う。
これにより、各企業では定期的にチェックを行い面談・指導を実施する制度作りが進んだ。
また、常駐の産業医を置くことのできない中小企業におけるメンタルヘルス対策も課題となっている。 3-3.働き方改革関連法案
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※2018年6月29日に成立、2019年4月1日改正法が適用開始
少子高齢化による労働力の減少、ライフスタイルの変化によるワークスタイルの多様化に対応するために施行された。
働き方改革関連法とは「残業時間の上限規制」「有給休暇の取得推進」「同一労働同一賃金の制度適用」などを目的としている。
HR総研2019年2月の調査によると、各企業の取り組みは、労働時間短縮のための制度・施策は「残業の事前届出制、許可制」(54%)が最も多く、以下、順に「ノー残業デーの設定」(52%)「フレックス・スライド出勤制度」(37%)「管理職の意識改革」(30%)「深夜残業の禁止」(29%)となっている。
04
最新の人事制度トレンド
上述の通り、人事施策・制度は、時代により求められるものが変化していく。
ここでは、人事制度の中核となる「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の中でも、特に「評価制度」について、近年においてトレンドとなっている制度を見ていく。
高い生産性や成長力、モチベーション向上を求められる昨今において、従来の年功序列制、あるいは成果のみを見る90年代型の成果主義では正しい評価がしにくくなっているのが現実である。
また、多様化するライフスタイル、ワークスタイルの中においては本人の納得感、同意が重要になってきており、評価基準や目標・役割の透明性が求められている。
こうした実情に即し、アメリカの企業を手本とした制度が導入されつつあるが、かつての成果主義のように制度のみを真似て定着しないのではなく、各企業に適した制度を複合的に組み合わせて導入していくことが重要である。
全体の傾向としては「短期化」「多様性」「透明性」といったことがキーワードになっているようだが、その傾向についていくつかの具体例を紹介していく。
4-1.リアルタイムフィードバック
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従来の人事制度では、半年から1年スパンで評価を行うケースが多かった。
これでは、期間初期の記憶があいまいであったり、直近の評価との乖離が生まれたりするため、月ごと、週ごとに細かく区切って評価・フィードバックを行い、それを蓄積することでリアルタイムな評価が可能になる。
市場の変化が速い業界において、各々が状況の変化に素早く対応することが期待できる。
4-2.ノーレイティング
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人事評価のひとつの形として、対象者をランク付けすることが一般的であった。
この評価がレッテルや自己否定につながりモチベーションを下げることもあり、その効果よりもデメリットが課題となる場合もある。
そこで、ランク付けよりも評価に対してのフィードバックや次の課題設定に時間を割くことで、コミュニケーションの活性化と個々のモチベーション向上を図る。
チームワークを大切にする職場に向いている。
4-3.バリュー評価
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成果のみを判断するのではなく、企業の指針に即した行動をとっているか、環境の変化に素早く対応しているかといった行動面を評価することで、対応力、成長力のある行動を促す。
企業ブランドの浸透やサービスの向上を目指す組織に適している。
4-4.コンピテンシー評価(行動評価)
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コンピテンシーとは「業務の遂行能力」のこと。業務の遂行能力が高い人材、成果を上げている人材に共通する行動特性に基づいて評価項目を設定し評価するため、結果のみでなく能力評価を正しく行うことができる。
また、模範となる評価項目に基づいて行動するため、安定して能力を発揮するための行動様式や知識、スキルを学び成長につなげることができる。
4-5.MBO(目標管理制度:Management by objectives)
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個人またはチームの目標を設定し、その達成度を評価するもの。
あらかじめ目標を細かく設定することで、達成に向けたプロセスが明確になり、具体的に達成度を評価できるため、客観的に能力やスキルを評価できる。目標達成に向けたモチベーションアップや次の目標設定による能力の向上を期待できる。
一方、設定した目標以外のことは疎かになるリスクもあり、目標設定時点での妥当性、実施中における進捗確認や軌道修正も重要になってくる。
4-6.360度評価(多面評価)
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従来の上司のみの評価に頼るのではなく、部下や同僚、場合によっては顧客も含めた複数の立場から評価をする手法。
多面的に評価を行うことで、納得感のある評価を得ることはもちろん、自己評価と周囲の評価の乖離を認識し、具体的なフィードバックや改善策につなげることも期待できる。
しかしながら、普段から評価を気にしすぎ行動が萎縮したり、評価する側のスキルのばらつきなども考えられ、対応策として、結果と処遇を直結しすぎない、この制度のみに頼りすぎないことも必要である。
これら各種制度は、それぞれの目的と特性があり、導入するだけで成果を生むものではない。
業態や組織の現状にあわせ、制度そのものを変化させたり、リスクへの対応策を準備しておくことも必要である。
また、単一の制度が万能であるわけではないので、複数の制度の組合せによって「評価と育成」「能力と行動力の評価」など有機的な解決に導くことが重要である。
05
まとめ
- 人事施策・制度とは人事部が行う「社員の採用から管理、育成など人事に関する施策全般」を意味するものであり、その制度によって人材の確保、成長、組織力の向上につながる。
- 人事施策・制度は、時代背景や社会、経済環境によって変化し、導入だけでなく定着させるための方策が重要である。
- 少子高齢化による労働力の減少という課題に向け法令が制定され、各企業ではそれに即した各種制度の整備が必要となっている。
- ライフスタイル、ワークスタイルの多様化に伴い、「画一性による効率」という考え方から「多様性による生産性アップ」にシフトしている。
- 近年トレンドとなっている制度のキーワードは「短期化」「多様性」「透明性」。
- 各種制度を定着させるためには、業界や組織の特性にあわせ、複数の制度を組み合わせることで成果を上げ、定着させることができる。
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